2019 May

22

Wed

セミナーレポート

Think Differentとは何か?
~誰かを真似ない、自分だけの生き方とは?~

石川 善樹氏 予防医学研究者、博士(医学)

青木 耕平氏 株式会社クラシコム

篠田 真貴子氏

角 勝氏 株式会社フィラメント

第一部:プレゼンテーション 「Think Different」とは何か?

「考えるということは何か」を考える。

「考えるとは何かについて、めちゃくちゃ考え抜いたことってありますか?」

そのような問いを、以前から人に会うたびに聞いているのですが、「ある」と答えたのは過去にヤフーの安宅和人さん、ビジネスデザイナーの濱口秀司さん、パナソニックの大嶋光昭さんの3人だけです。

彼らに共通するのは、様々な分野ですごい成果を何度も出しているということ。自分なりの方法論を持っているからこそ、様々なテーマについて考えられるのでしょう。僕はそういう人たちに憧れます。

その一方で人間というのは勝手なもので、自分では大して考えてないくせに、人には「考えろ」と言う(笑)。それではいけないなということで、僕はこれまでたった10年ほどですが、「考えるとは何か?」というテーマについて試行錯誤をしました。その話をすると永遠に終わらないので、まず最初の投げ込みとして僕からは、もっともらしい話をしたいと思います。

考える人の脳の特徴である、大局観を磨く。

まずは分かりやすいところからいきましょう。

「クリエイティブな人の脳内は何が起きているのか?」

という問いがあります。これについて、興味深い研究(https://www.pnas.org/content/115/5/1087)が昨年度出ました。これを僕なりにざっくり解釈すると、要は「大局観」が大事ということです。

・・・と言われてもよく分からないと思うので、もう少し整理してお話しすると、この研究では脳内にある3つのサブネットワーク(DMN, SN, EN)に着目しました。それぞれ役割が違います。

DMN(直観)は、アイデアを出す役割。
EN(論理)は、アイデアを精査する役割。

面白いのがSN(大局観)で、上記の2つのサブネットワークを媒介する役割をしている。そしてこのSNがきちんと働いている人が、色んなことを考えられる(=クリエイティブ)というのが研究の超ざっくりした内容です。

つまり、よく考えられる人は「大局観」があるというのが、一つの指針になるのかなと。では極端な例を考えてみると、「大局観がないと答えられない問いとは何か?」といわれれば、ぼくは例えば次のような問いだと思います。

「日本人の心とはなにか?」

これは言わずもがな、本居宣長が生涯をかけて取り組んだ問いですが、その話をするとあまりに長くなるので、いったん僕からの簡単な投げ込みはここで終えたいと思います。

第二部:ディスカッション 「自分らしい生き方を送るためのThink Differentとは?」

今の石川さんのお話、面白かったですよね。ぜひ本居宣長の話が聞きたいです。

石川

本居宣長は、古事記の研究をした人です。日本人古来の発想法や魂とは何かについて、生涯をかけて研究していました。何と、「天地(あめつち)」とは何かを理解するのに5年もの歳月をかけている。これでは一生かけても絶対終わらないでしょう!?(笑)

僕は学者ではないですが、自分の仕事や生活を通じて考えていたことと接点もあるなと、スッと腑に落ちました。普段、皆さんは脳のCPUリソースを何に使ってます?

篠田

考える出発点は「んん?」という違和感。「これが正しい」「普通はこうです」と言われるのが引っ掛かりの始まり。ずっとその疑問が頭の中にあると、日頃普通に生活していても段々事象やヒントが集まってきて、ある時「つまりこれがこういうことで、あーなるほどね!」とつながってくる。うまく考えられるのは、何かと何かの対比ができる時ですね。

石川

僕も同じことやってると思います。たとえば最近は、日本昔話に興味を持って読み漁っているのですが、引っ掛かりは「何で日本昔話の主人公はおじいさん・おばあさんなのか?」ということ。4才の子供もそれに気づいて「またおじいさん出てきたー!」と(笑)。

それで調べてみたら、それをまさに研究している人がいた。「これは何でなんだろう」という、引っ掛かりというか違和感ですね。

青木

最近ある方から「クリエイティブなことをどう人に説明するんですか?」という質問を受けました。ビジネスを科学的に進めようというトレンドにおいては、因数分解の手法が使われがちです。

でも、ピカソの絵がなぜ良いのかを因数分解的にとらえられるのか?と。そこで僕は、クリエイティブなことは「因数分解をしないでそのまま伝える」と回答したのです。

「そのまま伝える」というのは、ひたすらパターン認識の共有を繰り返すことかな、と。AかBかどっちのクリエイティブがいいかという問いに対して教える側と教わる側が選択した結果を共有するというのを100回くらい繰り返していくと、その答えは大体同じ基準に沿ったものになっていくという非常にフィジカルな話です。

その際、「なぜAがいいか」という説明はするんですか?

青木

それをやると因数分解になってしまうので、できる限りやらないようにしています。ある人に「青木さんってホント論理的じゃないですよね」と言われたんです。

自分では論理的だと思っていたのですが、「何かを説明するときにいつも例え話をする」と。確かに、ほとんどのことを肌感覚で理解しています。組織やマーケットの問題とか、自然科学的にだけではとらえられないものがある。

そういう場合は、パターン認識を積み重ねるというフィジカルな訓練をしたり、アナロジーで理解してアナロジーで説得しますね。

すごく面白いですね。経営者は自分がやってきたことをマニュアル化して、自分がいなくてもできるようにするじゃないですか。青木さんはそれをやらないということですよね。

青木

もはや世の中に「あるべき」ことは揃っている。これから先ビジネスで競うのは、微細な差に過ぎません。スマホ各社もメイン機能はほぼ確立されていてどれでも良さそうな中で、微細な差が売り上げを左右している。そんな微細な差が大きな経済格差を生んでいる社会ですから、因数分解だけでは戦えないと思うんです。

篠田

これは価値観、すなわち好き嫌いの話ですよね。家庭教育って子供に親の価値観を伝えることですが、それも因数分解とかせず丸ごと教えますものね。

青木

本来、理系と文系は哲学を修めるための諸要素だとすると、科学は真理を追求するためのスコープで、文系学問は物事をよりホリスティックにとらえるためのもの。文系学問を再評価する時期なのではと思うんです。「科学かアートか」より、「文系か理系か」では、と。

篠田

皆さんの多くは組織で働かれていると思いますが、組織は分業、すなわち科学的な因数分解でできている。iPhoneをつくるにも、アップルの社内は各部門で分業していますよね。

組織のOSに因数分解を求める力学が組み込まれていて、属人性を許さない。その環境の中で、今青木さんが言ったことをやるのは基本的に無理という前提で始めないと結構キツイと思うんです。

青木

本当にその通りですね。

篠田

「ビジョン」「ミッション」は因数分解されたものを統合するツールとして本当に大切なものである一方で、実は「丸ごと」は伝えられない。言葉にした瞬間、「丸ごと」の7割は伝わるかもしれないけれど、魔法が解ける。でも受け手は言葉を通した7割しか受け取れない。

僕は今まさに会社のミッション・バリューをつくっていて(笑)。常に「このキーワードを入れ替えたらどうなるか」とかを考え続けている。たまに涙が出ることもあります。

青木

それはエモいな。

そうなんですよ。これを皆に見てほしいとまでなれば良い気がする。僕は20年勤めた市役所を辞めて今の仕事をやっているので、それだけやりたいことがあるということなんですね。なので、玉を磨いてそれを美しいと思ってくれる人に来て欲しいという思いがある。

篠田

言葉を一言一句吟味する中で、自分のミッションステートメントが好きになる、と。今日のお題はThink Differentで、私たちはThink Differentな生き方をする人たちということで集められたと認識してますが、皆さんご自身についてどう思われていますか?

青木

僕の場合はすごい面倒くさがりやで、アップグレードはつらい道のりなのでアップデートに行きたくなる。宿命的にThink Differentの方に向いているんでしょうね。

僕は「御社の問題点は何ですか?」と面接で聞かれた瞬間に、「それが分かったら解決できる」と一気に自分のトーンが下がってしまうんです。自分も他社のご相談に乗るときに、「曲がりなりにもこれまでどうやって続いてきたんですか?」とまず聞くようにしています。

石川

僕の父親は医者で、まさにそれをやっています。健康診断の結果が出た時に、悪いところを普通は見ると思いますが、父親は「今日まで元気にこられた理由は何ですか」というところから始める。

彼は医師患者コミュニケーションの第一人者で、問題を突いて解決するのは医者としては正しいけれどもコミュニケーションとしては違うやり方もあるんではないか、と。

青木

問題点を聞くということは、ビジネスはマイナスをゼロにすることが前提と言っているようなもの。問題が無かったら何もできないということでもある。

僕の会社では、経営幹部層の人でも最初の1年くらいは雑用をやってもらいたいと思っています。人の様子を色々見て、問題点が無ければ何もしないんです。機嫌よく、何もせずにいられる才能は大切だと思います。

僕は小学生5、6年の頃に「生きるって何だろう」とずっと考えていた。

大学では過去の人間の塊があると思い歴史を勉強したものの結局わからなかったんですが、娘が生まれた瞬間に「生きるというのは、今自分が生きている「生」を使って、より良くして未来の人たちにバトンを渡すことなんだな」と、目の前のガラスがバリンと割れるくらいはっきりわかった。

仕事以外で世の中に役立てることを自分はやっているのかと思うようになり、大阪市の市役所で新規事業の提案をしたら2回連続で入賞して、「あ、こういうのが得意なんやな」と気づいた。

そうなると仕事が楽しくてしょうがない。立てた仮説が全部当たる。でも市役所では異動があるので、自分でこれをやろうと起業して今に至るというわけです。

青木

他の皆さんは、ガラッと変わった瞬間ってありますか?

篠田

あまり無いですね。私の場合は、「それ嫌だ」っていう日々のワガママが若干強め?(笑)。

石川

僕が29才の頃、北川拓也から言われた言葉で人生変わりました。

曰く、「善樹さんは勉強しすぎ。論文を読み過ぎちゃうと、やり尽くされてる気になりませんか?そしたらもうやる気がしない。だから僕は勉強しない」と言われて(笑)。

情報はインプットするタイミングがある。自分が興奮して考えて考えて、辛抱して堪らなくなったらそこで初めて情報を得てください、と。

すると、たとえ似たことを人がやっていたとしても、そこまで自力でたどり着いたという自信が持てるし、なにより似ているようで必ず人と自分の発想は何かしら些細な違いはあるものです。その違いを育てることが大事なのだと。

青木

「車輪の再発明」というのを自分も推奨していて、何でも内製する派です。何年もかけて開発していたりするのも、損ではなく必ず何かにつながると思っている。

まずメンバーのテンションが上がるのが第一。次にお客さんのテンションが上がり、最後に収支を考える。最初に事業計画書を書き始めてもテンション上がらないので。

本人の熱量が周りに伝播して、そこから何かが生まれていくみたいなことにつながっていくんですね。と、ここでお時間が来てしまったようです。非常に学びの多いセッションありがとうございました。ご質問はネットワーキングパーティーにてお受けしたいと思います。今日はありがとうございました。

構成:神田 昭子

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